浸透圧ギャップの計算式 3.7か4.6かそれが問題だ!

浸透圧ギャップにおけるエタノールの項の除数 3.7か4.6か?
浸透圧ギャップについての記事を書くことが多くなっていますが、今回は新たに発表された論文を紹介します。
以前の記事で、エタノールを含めた浸透圧の計算式として以下の式を紹介しました。
2×Na(mEq/L) + Glucose(mg/dL)/18 + BUN(mg/dL)/2.8 + Ethanol(mg/dL)/3.7
この式は、2001年の研究1に基づいたもので、ERの患者を対象にエタノールの影響を考慮した浸透圧ギャップを計算した結果、3.7で割るのが最もモデルに適合するとされました。その後、128名の患者を対象に前向きに適合度を検証したところ、3.7が最適という結果が得られています。
理論上、分子量から考えると4.6で割るのが適切ですが、この点は理論と臨床現場の乖離とも言えるでしょう。
3.7の問題点
ただし、3.7という除数には課題があります。3.7で計算すると、4.6で計算する場合に比べて、計算上の浸透圧が高めに出ます。つまり、
浸透圧ギャップ = 実測浸透圧 ― 計算浸透圧
であるため、計算浸透圧が大きくなると、浸透圧ギャップは低く見積もられることになります。これにより、本来浸透圧ギャップが存在するのに「浸透圧ギャップなし」と判断されるケースが出てしまい、有毒アルコール中毒の見逃しにつながる可能性があります。
今回紹介する研究2では健康な22名のボランティアにエタノールを摂取してもらい、2時間後4時間後、6時間後に採血を行い、浸透圧、血清Na、BUN、血糖を測定しました。そして、エタノールの項の除数を3.7とした場合と4.6とした場合の比較を行いました。
その結果、計算上の浸透圧は除数が4.6の方が正確であることが示されました。ただし、そのトレードオフとして、偽陽性率が8%から16%へと増加することが明らかになっています。
どちらを採用すべきか?
一方の研究は健康なボランティアを対象としたものであり、もう一方は救急の実際の患者を対象としたものです。臨床現場の患者層には、2001年のPurssellらの研究の方が適している印象を受けます。
しかし、有毒アルコール中毒の見逃しを防ぐためにより慎重な対応をとるべきであることを考慮すると、浸透圧ギャップの計算にはエタノールの項の除数として4.6を採用する方が適切だと私は考えました。私の著書でも「3.7で計算するのが現実的」と書きましたが、今後は方針を変更する必要がありそうです。
ということで、私は今後は
2×Na(mEq/L) + Glucose(mg/dL)/18 + BUN(mg/dL)/2.8 + Ethanol(mg/dL)/4.6
を使用するつもりでいます。
結論
浸透圧ギャップの使い道については別の記事に書いた通り、そもそも大きな議論の余地があるのですが、それも踏まえながら適切に浸透圧ギャップを使用することが重要です。
浸透圧ギャップについての議論はこちらをご参照ください

参考文献
1. Purssell RA, Pudek M, Brubacher J, Abu-Laban RB. Derivation and validation of a formula to calculate the contribution of ethanol to the osmolal gap. Ann Emerg Med. 2001;38(6):653-659. doi:10.1067/mem.2001.119455
2. Marino R, Sidlak A, Scoccimarro A, Flickinger K, Pizon A. Ethanol and the Limitations of the Osmol Gap. Annals of Emergency Medicine. 2025;0(0). doi:10.1016/j.annemergmed.2024.12.022