ボツリヌス中毒に注意!最強の神経毒「ボツリヌス毒素」とは?

はじめに
最近、日本でボツリヌス中毒が発生しました。1報道によると、レトルト食品のようなパウチに入った食品を本来は冷蔵保存しなければならないにも関わらず、常温保存して罹患したとされています。ボツリヌス中毒は、非常に強力な神経毒素によって引き起こされます。こちらでは、ボツリヌス毒素の危険性や予防策について詳しく解説します。
ボツリヌス毒素とは?
ボツリヌス毒素は、Clostridium botulinum(クロストリジウム・ボツリヌム) という細菌が産生する神経毒です。自然界に広く存在し、土壌、河川、海洋、食品などから検出されます。この毒素は極めて強力で、さまざまな毒の中でも最も少量で致死的になることが知られています。1gで100万人以上を致死させる可能性があります。2アメリカのCDC(アメリカ疾病予防センター)によるとカテゴリーA(バイオテロに使われる可能性があり最も優先的に対応が求められるもの)とされています。猛毒として知られる青酸も1人の人間の命を奪うには100mg程度が必要とされることを考えるといかに極めて危険な毒か分かるかと思います。
ボツリヌス毒素は神経伝達物質であるアセチルコリンの放出を阻害し、筋肉の麻痺を引き起こします。3これにより、呼吸筋の麻痺が進行すると、人工呼吸器が必要になるほどの重篤な状態になることがあります。
ボツリヌス中毒の原因
ボツリヌス中毒は、以下のようなルートで発生します。
- 食品由来(食中毒型)
- 家庭で作った瓶詰め食品(野菜の漬物、発酵食品、コンフィなど)適切に処理されていない缶詰食品加熱不足の真空パック食品
- 塩分や酸度が低い発酵食品(日本ではいずしによる発症例が多い)
- 乳児ボツリヌス症
- 1歳未満の赤ちゃんがボツリヌス菌の芽胞を摂取し、腸内で毒素を産生することで発症
- 原因食品の代表例:ハチミツ(乳児には絶対に与えない)
- 創傷ボツリヌス症
- 傷口にボツリヌス菌の芽胞が入り込み、増殖して毒素を産生する
その他にも美容につかわれるボトックスの注射でボツリヌス毒素の中毒を起こしたことも報告されています。
ボツリヌス中毒の症状と危険性
今回報告されたケースで当てはまる食品由来のボツリヌス中毒の症状は、比較的早期に出現します。初期には嘔吐・下痢・腹部膨満や腹痛などの食中毒のような症状から始まります。その後にやや時間差があって神経症状(物が二重に見えたり、筋力が低下するなど)が出現します。
特に危険なのは呼吸麻痺で、適切な治療が行われなければ致死率が高くなる可能性があります。
ボツリヌス中毒を防ぐために
ボツリヌス中毒は適切な食品管理によって予防できます。4
- 瓶詰め・発酵食品の注意点
- 家庭で瓶詰めや発酵食品を作る際は、120℃で30分以上の加熱を行う(ボツリヌス菌の芽胞は100℃では死滅しない)できれば圧力鍋などを使用するとボツリヌス中毒の予防になります。酸性度(pH4.5以下)を保つために酢や塩を適切に使用する
- 真空パック食品は必ず冷蔵し、長期間保存しない
- 乳児へのハチミツ禁止
- 1歳未満の乳児にはハチミツを与えない
- 食品の適切な保存・加熱
- 真空パックや缶詰食品は開封後すぐに消費する冷蔵保存が推奨される食品は必ず冷蔵する
- 食品は十分に加熱してから食べる(ボツリヌス毒素は80℃以上で30分加熱すると不活性化)
ボツリヌス毒素は種類によって味に影響を与えないこともあり、変な味がしなかったからといってボツリヌス毒素ではないということはできません。
もしボツリヌス中毒が疑われたら
- すぐに医療機関を受診し、症状を詳しく伝える
- 疑わしい食品があれば、保健所や医療機関に提供する
- 早期にボツリヌス抗毒素(BAT)を投与することで、重症化を防ぐことが可能。ただし、ボツリヌス抗毒素はすでにおきた症状を良くするわけではないので、早めの治療が重要です。
まとめ
ボツリヌス中毒は、日本国内でも発生する可能性がある危険な食中毒です。しかし、適切な食品管理と予防策を講じることで、そのリスクを大幅に低減できます。 特に、家庭での瓶詰め・発酵食品の取り扱い や 乳児へのハチミツ禁止 は重要なポイントです。
万が一、症状が現れたら速やかに医療機関を受診し、適切な治療を受けるようにしましょう。
ボツリヌス毒素の型やメカニズム、抗毒素による治療についてのお話し(医療関係者の方向け)はこちらをどうぞ

1. 新潟市の50代女性、常温保管した要冷蔵食品を食べ全身に麻痺症状…ボツリヌス菌による食中毒. 読売新聞オンライン. February 10, 2025. Accessed February 13, 2025. https://www.yomiuri.co.jp/national/20250210-OYT1T50145/
2. Pöhlmann C, Elßner T. Multiplex Immunoassay Techniques for On-Site Detection of Security Sensitive Toxins. Toxins. 2020;12(11):727. doi:10.3390/toxins12110727
3. Hallett M. One Man’s Poison — Clinical Applications of Botulinum Toxin. New England Journal of Medicine. 1999;341(2):118-120. doi:10.1056/NEJM199907083410209
4. CDC. Botulism Prevention. Botulism. May 16, 2024. Accessed February 11, 2025. https://www.cdc.gov/botulism/prevention/index.html