「そのスパイス、本当に安全ですか? ― レストランで起きたトリカブト中毒事件」

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救急外来を受診した11名の患者ーその原因は?

スパイスで中毒になると聞くと、どこか遠い国の昔話か、都市伝説のように感じるかもしれません。しかし2022年、カナダのトロントにあるレストランで提供された一皿の料理が、複数人を同時に救急搬送する事態を引き起こしました1。原因はトリカブト(Aconitum)に含まれるアコニチンでした。今回はそんな事件をみていきます。

病院の救急にとあるレストランから嘔気・嘔吐を訴えて搬送された患者さんたちがいます。

気持ちが悪くて、吐き気がある。症状自体は比較的よくある症状です。風邪でも、胃腸炎でも、不安発作でも説明できそうな組み合わせです。

合計で12名もの患者が同じレストランで発生しています。この時点では食中毒を疑うのも自然なことに感じられるかもしれません。

さて、これは食中毒でしょうか?

食中毒として合わないなと思うのは食事摂取後症状出現までの早さです。

通常食中毒として症状発現までは、潜伏期間が一番短い黄色ブドウ球菌の毒素による食中毒でも数時間はかかります。今回のケースでは早い人は5分以内に症状が出てきています。

そうするとどうも食中毒ではなさそうだなと、何かの違和感を感じるのがとても大切です。

その夜、同じような訴えの患者が次々と現れました。8時間で11名もの患者が受診します。みんな同じレストランで食事をしていました。

ほとんどの人が神経症状(口の周りのしびれ、手足のしびれ、目がぼやける)を認めていた他、嘔気・嘔吐・腹痛などの消化器症状がありました。そして、多くの患者で妙な不整脈を認めていたのです。その一つがBidirectional Ventricular Tachycardiaという不整脈でした。

現場で治療していた医師たちは何かがおかしい、何かの中毒ではないかと感じて中毒センターに連絡します。現場の医師たちから症状についての報告を受けたトキシコロジストたちは、症状から判断してこれはアコニチンである可能性が極めて高いと考えます。もちろん原因がハッキリと同定される前ですし、患者さんの血液サンプルなどからアコニチンが同定されるよりも前の話です。

中毒センターはアコニチン中毒としての治療方針について推奨を出しつつ、保健所に連絡して、問題となったレストランでアコニチン中毒が発生している可能性が高いと伝えます。保健所はレストランへ行って、症状が出現した人がみんな食べていた鶏料理に使われる材料を押収、その中でサンドジンジャーと記載されたスパイスが怪しいと目星をつけます。3日後には原因となったアコニチンをそのスパイスから同定し、流通していた同じスパイスも押収してこれ以上の被害は出ませんでした。病院を受診した11名の患者も、中には人工呼吸器が必要になったり、集中治療室に入院したりした人もいましたが、結果として死者は出ず、最悪の事態は免れました。

さて、なんでこんなことになってしまったのでしょう?

料理に使われていたスパイスは中国から輸入されたものでしたが、輸出業者はサンドジンジャー以外にトリカブトも取り扱っており、ラベルを貼り間違ったという単純なミスだったそうです。幸いにして死者はでなかったものの、国際的な物流が盛んになるなかで、このような輸出元で混入した毒物による事件は跡を絶たずどうやって防ぐのがいいのか、なかなか難しい問題です。

トリカブト中毒

皆さんにとってトリカブト中毒はあまり接する機会がないものだと思いますが、トリカブト中毒は歴史的には非常に有名です。いざ接するということになったときに、役に立つように、ちょっとトリカブト中毒についてまとめます。

まずはどんな状況でトリカブト中毒になるの?という話です。過去に報告されてきた典型的なシチュエーションは以下の通りです。

1. 漢方・民間薬の誤使用

  • 炮製(十分な加熱・処理)されていない附子
  • 自己判断での生薬使用

2. 食材の誤認

  • 山菜(ニリンソウ、ヨモギなど)との誤認
  • 家庭菜園・自生植物の誤食

3. 自殺・他殺

  • 古典的毒物としての使用
  • 「検出されにくい毒」と誤解されて使われたケース

アコニチンとは

そして先程から度々名前が上がっているアコニチンとは何者でしょうか?

アコニチンはトリカブト属植物に含まれるアルカロイドで、極めて強力な毒性を持ちます。未加工の根を1 g前後摂取するだけで致死的とされることもあり、非常に治療域の狭い物質です。

作用機序はNaチャネルオープナーと言われます。Naチャネルを「開きっぱなし」にする毒で、電位依存性Naチャネルを開放した状態に保つことで結局Naチャネルが機能しなくなってしまうということです。そうなると、神経・筋・心筋などに影響がでます。

この作用により出現する症状は大きく分けて以下の3つに分けられます。

  • 神経症状:しびれ、感覚異常、筋力低下(特に口唇のしびれは多い)
  • 消化管症状:悪心、嘔吐、腹痛
  • 循環器症状:致死性不整脈、徐脈・頻脈、血圧低下

が同時多発的に出現します。

Naチャネルを阻害する、局所麻酔薬中毒でも口唇のしびれ・不整脈などがでてくることからもなんとなく想像しやすい中毒の作用かと思います。

特に心筋では、両方向性心室頻拍(bidirectional VT)が有名です。教科書で一度ぐらい目にしたことがあるかもしれませんが、実際に眼の前で起こるとぎょっとするような不整脈です。幸いにして実際に遭遇することは極めてまれですが。

Bidirectional VTと聞いたときにかんがえなければならない代表的な鑑別疾患3つは

  • ジギタリス中毒
  • アコニチン中毒
  • カテコラミン作動性多形性VT(CPVT)

特にジギタリス中毒については脈の早い心房細動以外の不整脈はすべて起こりうると言われ、極めて多彩な不整脈を起こしますが、Bidirectional VTをみたらジギタリス中毒だというぐらい特徴的と言われます。(もちろん出現頻度は低いのですが。)

アコニチン中毒の治療

それでは、実際にアコニチン中毒の治療についてみていきます。

支持療法

重要な点として、アコニチンに特異的な解毒薬は存在しません。

そのため治療の本質は、

「毒が体から抜けるまで、致死性不整脈と循環不全をいかに乗り切るか」

この一点に尽きます。

  • 気道・呼吸・循環の確保
  • 持続的心電図モニタリング
  • 血圧・酸素化の厳重な管理

をきっちりと行っていくことが重要です。アコニチン中毒では、症状の進行が速く、状態が急変するため、比較的軽症に見える症例であっても慎重な経過観察が必要とされています。2

不整脈治療について

アコニチン中毒で最も問題となるのは、

心室性不整脈が治療抵抗性であることです。

実際、多くの症例報告・ケースシリーズで、直流除細動、リドカインといった通常のACLSでよく使われる治療が奏功しにくいことが示されています3

抗不整脈薬

2017年の包括的レビュー4では、65例のアコニチン中毒による心室性不整脈症例が解析されていますが、その中で比較的効果があったとされる薬剤はフレカイニドとアミオダロンの2つです。

フレカイニド(Ic群の抗不整脈薬)7例中6例で洞調律への復帰

アミオダロン(Ⅲ群の抗不整脈薬)20例中11例で洞調律への復帰

メキシレチンやプロカインアミドは症例数が少ないものの有効例もありました。

一方で、通常のACLSで使用されるリドカインや電気的除細動は、使用頻度は高いものの、奏功率は低いと報告されています。では電気的除細動をしないのか?と言われると、決してそういうわけではないでしょうが、通常の除細動だけでは戻りにくいので、アミオダロン・フレカイニドなどを検討ということかと思います。

鎮静:不整脈を悪化させないために

アコニチン中毒では、交感神経刺激や内因性カテコラミン増加が不整脈を助長すると考えられています。そのため、重症例では鎮静や気管挿管・人工呼吸管理が行われることがあります。実際に挿管後に心室性不整脈が落ち着いた症例も報告されています1,3

挿管・鎮静を行いつつ、フレカイニドやアミオダロンなども使っても改善がみられなければどうするのか?その場合にはECMOになります。Chan のレビューでは、薬剤抵抗性の致死性不整脈心原性ショックに対して、早期のECMO導入が推奨されると明確に述べられています2 。Coulson らの別のレビューでも、ECMOを使用した6例中4例で洞調律へ回復と報告されており4、「毒が代謝・排泄されるまで循環を保つ」のがよさそうです。

血液浄化療法:期待と限界

血液浄化療法は効くのか?一部の症例では、活性炭血液吸着(charcoal hemoperfusion)が行われています3。しかし、有効性を一貫して示すエビデンスは乏しいroutineに推奨できる治療ではないというのが現在のコンセンサスです。

最後に

アコニチン中毒が、消化器症状、神経症状(特に口唇のしびれなど)、循環症状(特に心室性不整脈―Bidirectional VT)を起こすことを知っていたからこそ、確定診断をつける薬毒物分析が行われる前に中毒センターの医師たちは原因を推定することができました。だからこそ、保健所はスパイスにたどり着きさらなる被害を防ぐことができました。診断が治療に直結するかと言われると、拮抗薬がある理由でもなく、できるとしたら抗不整脈薬の選択を若干変更すること(とはいえアミオダロンはアコニチンと知らなくても同様の状況では使いそうな印象は受けますが、)や、突然の循環虚脱が十分に起こり得ることを考えて、重症例ではECMOの立ち上げがすぐにできるようにしておくことぐらいかもしれませんが、それでも原因が想定できているというのは治療する側からするとかなり安心感があるのではと思います。 そうやって専門の知識を生かして、最悪の事態を避け、全員の生存とさらなる被害の拡大防止という素晴らしい成果を挙げたトロントの中毒センターの医師の活躍に私はしびれるなぁと思ってしまいました。自分が同じ様に振る舞えるか?そうできるように一つづつ知識を深めていけたらなと感じた次第です。

参考文献

1. Kent JT, Sathya A, Juurlink DN, et al. Mass aconite poisoning from a mislabelled spice product. Clinical Toxicology. 2025;63(9):633-639. doi:10.1080/15563650.2025.2526115

2. Chan TYK. Aconite poisoning. Clinical Toxicology. 2009;47(4):279-285. doi:10.1080/15563650902904407

3. Lin CC, Chan TYK, Deng JF. Clinical features and management of herb-induced aconitine poisoning. Annals of Emergency Medicine. 2004;43(5):574-579. doi:10.1016/j.annemergmed.2003.10.046

4. Coulson JM, Caparrotta TM, Thompson JP. The management of ventricular dysrhythmia in aconite poisoning. Clinical Toxicology. 2017;55(5):313-321. doi:10.1080/15563650.2017.1291944

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プロフィール
千葉拓世
千葉拓世
中毒好き救急医
ひょんなことから中毒診療に魅了され、今では救急医として日々中毒診療に携わっています。救急科医としては、さまざまな患者さんに対応していますが、特に中毒に関する知識と経験を深めてきました。 家庭では、良き父親であることを心がけているつもりですが、その成果については自分でも判断しきれない部分があります。家族との時間を大切にしながら、仕事にも全力を尽くしています。 このブログでは、救急や中毒に関する情報を不定期にお届けできたらと思っています。少しでもお役に立てる内容を提供できれば嬉しいです。
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