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消化管除染の方針が大きく変わる??

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ブプロピオン中毒におけるCT・内視鏡の意味 

文献紹介

Gastrointestinal decontamination by gastroscopy in massive bupropion overdoses

Clin Toxicol (Phila). 2026 Jan 12:1-6.

はじめに

今回ご紹介する論文はブプロピオンという抗うつ薬に対してCTおよび内視鏡がどれぐらい役に立つかというのを調べて後ろ向き症例シリーズです1。えっ、そんなの意味あるのと言われそうですが、中毒の世界はなかなか前向きRCTとか難しく、後ろ向きデータから何か意味を見出していく必要があることも多いこともありますし、またこういった症例シリーズに今後の研究の萌芽がみられることもありますから、ちょっとお付き合いいただけるとありがたいです。

急性中毒の初療で「消化管除染をどこまでやるか」は、いつも悩ましいテーマです。

胃洗浄の有効性に限りがあることは以前にも記載したところです。

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日本中毒学会の急性中毒標準診療ガイドには、状況によってはCTや内視鏡的回収を示唆する文脈があります。「薬毒物残存の評価法として腹部CT検査や上部消化管内視鏡が利用されることがある。」というのがその記載でした。ただ、私はこれまで「理屈はわかるけれど、臨床的にどれだけ“毒が減った”と言えるのか、データの裏付けが弱く」若干先走った感じだなと思っていました。(学会関連の方が見ていたらすみません。)

CTで見えることも、内視鏡で回収できることも分かりますが、結局実際にどれぐらいの薬の成分が残っていて、どれぐらい回収できるかデータで示したものはいままでありませんでした。錠剤が残っていても結局薬効成分はすべて溶け出していて効果がないかもしれませんし、薬の錠剤が残っているから内視鏡をするというのも若干早計すぎるように思えていました。

過去に「薬が残っているか確認のためにCTを行いました」と症例報告で書いた(実際はショックなど別の病態もあり別の理由もあって行ったわけだったのですが)ものについては査読で意味不明だとツッコミを受けたこともあります。世界的な標準治療を考えるとCTを確認のために行うのは割と離れたプラクティスではあったわけです。

ところが今回紹介する論文は、その一番の弱点に踏み込んできます。

胃カメラで回収した錠剤を、実際に分析して“回収できたブプロピオン量(mg)を定量しています。読んだ後に「おっ」となるタイプの研究でした。

ブプロピオンとは?

日本にはないけれど、海外では日常的に遭遇する厄介者

研究の内容に入る前に前提としてブプロピオンがどんな薬かを理解しておくことが重要と思うので簡単に説明します。

ブプロピオンは海外で広く使われる抗うつ薬(禁煙補助でも有名)で、薬理としてはドパミン/ノルアドレナリン再取り込み阻害(NDRI)に分類されます。次に構造式を示しますが、構造式は以下に示す通りです。ベンゼン環にくっついている炭素に酸素が二重結合でくっついているかたちになります。

ブプロピオン

これはKhat(カート)といって、中東や東南アジアなどで嗜好品として使われる植物に含まれる興奮系の成分であるカチノンによく似ています。

カチノン

そしてこのカチノンもブプロピオンもフェネチルアミンといって

フェネチルアミン

フェニル(ベンゼン環)+エチル(C2H6)+アミン(NH3)がくっついた構造になっていて、薬理作用的にはアンフェタミンとかの覚醒剤に似ています。

ということで、ブプロピオンは薬としては抗うつ薬に分類されますが、中毒学の目線で見ると「抗うつ薬」というより、むしろ交感神経賦活薬っぽさが前に出ます。

そして、この薬は実に厄介です。

単に普段より1錠多くのんでしまっただけで痙攣してしまうという報告もあり2、最初は大丈夫と思っていても遅発性に症状がでることもあります3。そして、過量では反復けいれん、QRS延長、不整脈、ショックまで起こしますし、しかも、治療は基本的に支持療法で、特異的拮抗薬がありません。他の抗うつ薬よりも死亡率も高く厄介です4

心毒性も曲者で、QRS延長の機序が典型的なNaチャネル遮断というよりギャップジャンクション遮断が示唆され、重炭酸が効きにくいです。重症例ではVA-ECMOが必要になることもあり、要するに「重症化しやすい」「治療の手札が少ない」タイプです。

だからこそ、ここで初めて消化管除染の有効性を高めることの価値があります。

この研究、何をしたの?

このケースシリーズは6例。

推定摂取量は13.5〜35gで、いずれも“massive”とされる範囲です。10gを超えると

スウェーデンの中毒センターでは、2022年以降、10gまたは150mg/kg超を「massive」とみなして、低線量腹部CTを推奨し始めたそうです。CTで胃内に錠剤がしっかり残っていると確認できて、胃内にかなり残存しているなら、胃内視鏡で回収する流れです。

回収した錠剤を乾燥させ、粉にしてブプロピオン含有量を測っています。

ちなみに全員、ICUで挿管管理され、胃カメラ後に活性炭投与。ECMOセンターへ搬送された例もあり、1例はVA-ECMOまで行っています。つまり、これはルーチンで行われた治療というわけではなく、最初から重症中毒という文脈です。

結果:6時間以内ならかなりの量が胃から回収できた。

結果は、6例が早期群と後期群で大きく2つに別れました。

摂取から6時間以内に胃カメラを行った3例では、回収できたブプロピオン量が3,414〜5,926mg。そしてそれぞれ錠剤の中に残っていた薬剤の量はもともと含まれていた薬剤の33−58%でした。有効成分がまだ錠剤の中に残っていたわけです。回収できた薬の量だけみても、それなりの量というわけで、著者らは胃内視鏡的回収が臨床的に意味があった可能性を訴えています 。

一方、24時間以降に胃カメラを行った3例では、回収量は92〜296mgに激減しています。錠剤の中に残っていた薬効成分は1−5%とほとんどが溶け出しています。つまりこの群では“ghost pills(殻)”が多かったといえます。

そしてこちらの遅れて内視鏡を行った3例のうち1例ではCTで胃内錠剤が見えないのに、内視鏡で殻だけ回収できており、CTは「殻」ではなく中に詰まった“薬の芯(コア)”を見ているのではという推測しています。

この論文から言えることは?

過去にも、徐放製剤の薬剤塊(pharmacobezoar)や内視鏡回収の報告はありました。

でも多くは「何錠取れた」「塊があった」で終わりがちです。

この論文はそこから一歩進めて、回収物に“どれだけ薬効成分が残っていたか”を測っています。早期に行えばまだ十分に薬効成分が残っており、そしてかなりの量が回収できています。(3例はそれぞれ18g服用のうち5.9g、15g服用のうち3.5g、13.5g服用のうち3.4gが回収されています。服用量は報告量なので誤差はあると思いますが。)

たった6例でも、ここは中毒診療の発想を変える可能性があるなと思いました。

単にCTしたら薬が残っていた、内視鏡したら薬が残っていた、内視鏡で薬が回収できたというだけではなく、このタイムフレームで内視鏡したらこれぐらいの量が回収できたと示しているのはなかなか画期的です。そしてCTが有効成分の有無の評価に使えるかもというのも面白い話です。

この論文が何かを変えるのか?私の感じたポイント

私はこの論文に興奮しつつ、同時に強くブレーキも踏みたいと思っています。この戦略は、少なくとも現時点では適応がかなり限定的です。

ブプロピオンは、(繰り返しですが)致死的になり得て、決定打の治療がない厄介な中毒です。さらに今回の対象は大量で、しかも徐放錠になります。こういう条件が揃って初めて、「吸収を減らす」介入のベネフィットが上に乗ります。

胃カメラは侵襲もあるし、リソースも食います。今回の6例も全例挿管されて施行されています。したがって、これが一人歩きして、中毒ならとりあえずCT、錠剤が見えたらとりあえず内視鏡というのは正しくないと思っています。

今後ブプロピオンや別の中毒、特に徐放錠で何時間ぐらいまでなら内視鏡的消化管除染が有効なのか、CTは他の薬でも薬効成分の残存を判定するのに役に立つのか、追加での研究が待たれるところです。

ちいさなパイロット研究だけれど、今後中毒診療におけるCTや内視鏡の位置づけを変えそうなゲームチェンジャー候補だなと感じました。

結論として私は、この研究をこう捉えています。

  • “致死的で、良い治療が乏しい中毒”において
  • 大量の徐放製剤が疑われ、
  • 早期(少なくとも6時間以内)に

胃内視鏡的消化管除染が臨床的に意味のあるほどの量の毒物を回収できる可能性があるのではと思っています。

ルーチンでCTを行うには他の薬剤でも検証が必要かなと思いました。

Take home message

今回の6例のケースシリーズは、「低線量CTで胃内の“芯”を見つけ、6時間以内に内視鏡で回収すれば“グラム単位”で毒を減らしうる」ことを、はじめて“mgのデータ”で示しました。ただし成立するのは、致死的で拮抗薬がなく徐放で胃に残りやすい薬剤の大量中毒という狭い領域です。追加の検証が楽しみなところです。

1. Tydén J, Blomgren A, Hakkarainen B, Nordmark Grass J, Lindeman E. Gastrointestinal decontamination by gastroscopy in massive bupropion overdoses. Clinical Toxicology. Published online January 12, 2026:1-6. doi:10.1080/15563650.2025.2598330

2. Keenan M, Alabi P, Alsakha A, Marraffa J, Wojcik S, Burke S. Does the time between doses in an unintentional double dose bupropion exposure affect the incidence of adverse effects? A retrospective cohort study. Clin Toxicol (Phila). 2025;63(2):127-132. doi:10.1080/15563650.2024.2439019

3.  Starr P, Klein-Schwartz W, Spiller H, Kern P, Ekleberry SE, Kunkel S. Incidence and onset of delayed seizures after overdoses of extended-release bupropion. Am J Emerg Med. 2009;27(8):911-915. doi:10.1016/j.ajem.2008.07.004

4. Overberg A, Morton S, Wagner E, Froberg B. Toxicity of Bupropion Overdose Compared With Selective Serotonin Reuptake Inhibitors. Pediatrics. 2019;144(2):e20183295. doi:10.1542/peds.2018-3295

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プロフィール
千葉拓世
千葉拓世
中毒好き救急医
ひょんなことから中毒診療に魅了され、今では救急医として日々中毒診療に携わっています。救急科医としては、さまざまな患者さんに対応していますが、特に中毒に関する知識と経験を深めてきました。 家庭では、良き父親であることを心がけているつもりですが、その成果については自分でも判断しきれない部分があります。家族との時間を大切にしながら、仕事にも全力を尽くしています。 このブログでは、救急や中毒に関する情報を不定期にお届けできたらと思っています。少しでもお役に立てる内容を提供できれば嬉しいです。
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