G-6BGPL5NXDT 浸透圧ギャップって使えるの?|救急と中毒のホントの話
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浸透圧ギャップって使えるの?

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浸透圧ギャップってそもそも何?

2025年2月の『Annals of Emergency Medicine』に、浸透圧ギャップに関する面白い記事が掲載されていました。内容は、エチレングリコールやメタノールなどの中毒における浸透圧ギャップの役割についての議論です。1,2

浸透圧ギャップとは、血液中のさまざまな物質が引き起こす浸透圧の差を測定する方法です。特にエチレングリコールやメタノール中毒の際、血清浸透圧が上昇することで浸透圧ギャップが広がるとされています。このギャップを計算することで、ナトリウム・ブドウ糖・BUN以外の物質が血漿に存在しているかどうかを推測することができます。具体的な計算式は以下の通りです。

浸透圧ギャップ

=測定浸透圧 ―(2×Na(mEq/L) + Glucose(mg/dL)/18 + BUN(mg/dL)/2.8)

このギャップが大きければ、エチレングリコールやメタノールが大量に存在している可能性があり、重症の中毒が疑われます。実際にエチレングリコールやメタノールを測定できれば一番良いのですが、通常の病院ではその検査ができないことが多いため、血漿浸透圧を代用するわけです。

臨床での浸透圧ギャップの課題

実際に浸透圧ギャップを臨床でどのように活用するかについては、いくつかの問題点もあります。どんな問題があるのか、少し見ていきましょう。

1. 偽陰性(感度の問題)

浸透圧ギャップは、エチレングリコールやメタノール中毒の初期には上昇しますが、これらが代謝されてグリコール酸やギ酸に変化すると、ギャップは縮小します。つまり、浸透圧ギャップが上昇していないからといって、必ずしもエチレングリコールやメタノール中毒ではないとは言えません。

また、正常な浸透圧ギャップにも幅があり、例えば-8〜+11mmol/Lや-10〜+10mmol/Lなどと言われています。3,4普段から浸透圧ギャップが低い人が急に上昇していても、それが正常範囲内であれば、異常として認識されないこともあるわけです。

さらに、浸透圧ギャップを計算する際にはエタノールの血中濃度も考慮することがあります。エタノールそのものも浸透圧を上昇させるため、その影響を除外するための計算式が使われます。具体的には、次のように計算します。

計算式:

2×Na(mEq/L) + Glucose(mg/dL)/18 + BUN(mg/dL)/2.8 + Ethanol(mg/dL)/3.75

理論上の計算からすると、4.6を使うのが正しいように(エタノールの分子量は46なので)と思われますが、実測するとこちらの方がモデルにフィットしています。ただ、4.6ではなく3.7で計算すると、計算上の浸透圧がより大きくなる、つまりは浸透圧ギャップが小さくなります。そうすると、もしかすると本当は浸透圧ギャップがあったのに、見つけられなかったということもあるかもしれません。(そういった理由で計算に入れるときに4.6を使うという方もいます。)

2. 偽陽性(特異度の問題)

浸透圧ギャップは、エチレングリコールやメタノール中毒以外の病状でも上昇します。例えば、アルコール性ケトアシドーシスや糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)、腎不全、ショック、乳酸アシドーシスなどが挙げられます。6また、プロピレングリコールやジエチレングリコール、マンニトールなど、さまざまな物質でも浸透圧が上昇するため、他の病気との区別が難しくなります。最近もアルコール性ケトアシドーシスの患者さんでは平均の浸透圧ギャップが27mmol/lで最大で57mmol/lにもなったという報告がありました。7

実際のところ浸透圧ギャップ感度・特異度は?

実際に浸透圧ギャップの感度や特異度はどうなのかというと、過去の研究では、カットオフ値を20とした場合、感度は0.82、特異度は0.85となり、いずれも完璧ではありません。8 特異度を上げるためにカットオフ値を30にすると、特異度は0.95になりますが、その場合、感度は0.49まで下がってしまいます。特異度を上げるためにカットオフ値を30にすると、特異度は0.95になりますが、その場合、感度は0.49まで下がってしまいます。

どう活用するべきか

感度も特異度も0.8台の検査は正直かなり使うのが難しいところですが、それでも臨床での役に立つ場面は多くあります。大事なのは、検査前にその検査を行う意味や確率をしっかり評価することです。事前確率がほとんどない患者に闇雲に検査をすれば偽陽性が増えてしまい不要な治療をすることになります。また、例えば、浸透圧ギャップが異常高値(50mmol/L以上など)であれば、エチレングリコールやメタノール中毒の可能性が高いと考えるのが良いでしょう。

いずれにしても浸透圧ギャップには大きな限界があるわけですが、とはいえ浸透圧ギャップに変わる良い検査も少ないわけで、限界を理解して適切に検査を行うことが大事ですね。

*その後に新しく浸透圧ギャップを計算するときのエタノールの項の除数に関して新しい論文が発表されていて、それはこちらで紹介していますのでご参照ください。

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参考文献

1. Kennedy J, Paskin S, Lentz S. The Osmolal Gap Has a Limited Role in the Evaluation of Possible Toxic Alcohol Poisoning. Annals of Emergency Medicine. 2025;85(2):180-182. doi:10.1016/j.annemergmed.2024.07.024

2. Whitledge JD, Guy E, Watson CJ. The Osmolal Gap: A Valuable Test for Identifying Toxic Alcohol-Induced Anion Gap Metabolic Acidosis. Annals of Emergency Medicine. 2025;85(2):179-180. doi:10.1016/j.annemergmed.2024.09.011

3. Whittington JE, La’ulu SL, Hunsaker JJH, Roberts WL. The osmolal gap: what has changed? Clin Chem. 2010;56(8):1353-1355. doi:10.1373/clinchem.2010.147199

4. Krahn J, Khajuria A. Osmolality gaps: diagnostic accuracy and long-term variability. Clin Chem. 2006;52(4):737-739. doi:10.1373/clinchem.2005.057695

5. Purssell RA, Pudek M, Brubacher J, Abu-Laban RB. Derivation and validation of a formula to calculate the contribution of ethanol to the osmolal gap. Annals of Emergency Medicine. 2001;38(6):653-659. doi:10.1067/mem.2001.119455

6. Kraut JA, Xing SX. Approach to the evaluation of a patient with an increased serum osmolal gap and high-anion-gap metabolic acidosis. Am J Kidney Dis. 2011;58(3):480-484. doi:10.1053/j.ajkd.2011.05.018

7. Hayman CV, Pires KD, Cohen ET, Biary R, Su MK, Hoffman RS. Elevated osmol gaps in patients with alcoholic ketoacidosis. Clinical Toxicology. 2024;62(10):609-614. doi:10.1080/15563650.2024.2397053

8. Krasowski MD, Wilcoxon RM, Miron J. A retrospective analysis of glycol and toxic alcohol ingestion: utility of anion and osmolal gaps. BMC Clin Pathol. 2012;12:1. doi:10.1186/1472-6890-12-1

プロフィール
千葉拓世
千葉拓世
中毒好き救急医
ひょんなことから中毒診療に魅了され、今では救急医として日々中毒診療に携わっています。救急科医としては、さまざまな患者さんに対応していますが、特に中毒に関する知識と経験を深めてきました。 家庭では、良き父親であることを心がけているつもりですが、その成果については自分でも判断しきれない部分があります。家族との時間を大切にしながら、仕事にも全力を尽くしています。 このブログでは、救急や中毒に関する情報を不定期にお届けできたらと思っています。少しでもお役に立てる内容を提供できれば嬉しいです。
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